「あのFA移籍、結局どうだったの?」——毎年11月、FA宣言のニュースが流れるたびに、ファンの頭をよぎる問いです。大型契約で迎えた選手は期待に応えたのか。出ていかれた球団は、人的補償で何を取り返せたのか。
この記事では、2016年オフから2025年オフまでの10年間にFA権を行使して他球団へ移籍した36人全員を、当サイト独自の勝利貢献スコア「WP」で採点しました。ドラフト答え合わせシリーズと同じ物差しで、公開されているWARの考え方に寄せた「勝」単位の指標です。移籍前3年との比較、球団別の損得、そして「人的補償の選手のほうが活躍した」逆転劇まで、数字で答え合わせします。成績は2026年シーズン終了時点です。
- 最大の勝ち組は楽天。浅村栄斗・岸孝之・鈴木大地で合計66.8勝分を獲得。しかも流出側の収支も12球団で唯一マイナスなし(±0)
- 最大の流出は西武。浅村・岸・森友哉・山川穂高らで失った価値は、人的補償で取り返した分を差し引いても76.5勝分
- 人的補償の逆転劇は実在する。山口俊(6.9)に対して平良拳太郎(7.5)、美馬学(1.5)に対して酒居知史(2.7)。出した側が得をしたケースが2件
※WPは打撃・投球成績から算出する独自指標で、守備やリードは含みません(詳細は採点方法の章)。
採点方法|ドラフト答え合わせと同じ物差しで
採点にはドラフト答え合わせシリーズと同じ独自指標WP(勝利貢献ポイント)を使います。公開されているWARと同じ発想で、「いつでも補充できる代替水準の選手と比べて、その年に何勝分の価値をもたらしたか」を推定するものです。野手は出塁率と長打率からwOBA近似の得点価値を出して勝に換算し、600打席で+2.0勝の代替水準と守備位置の補正(捕手+1.2など)を加えます。投手は代替水準の防御率(先発はリーグ+1.00、救援は+0.25)との差に投球回を掛けて勝に換算し、勝利数や奪三振は使いません。フル出場の平均的な野手で年2.0前後、規定投球回の平均的な先発で年2.1前後がおおよその目安です。代替水準を下回った年はマイナスになります。
- 移籍前: FA宣言した年を含む直近3シーズン(移籍元での成績)の年平均WP
- 移籍後: 移籍先に在籍した各年のWPの合計と年平均(再移籍後や引退後は数えない)
- 人的補償: 補償で移った選手が、移籍元で挙げたWPの合計。「出した側が受け取った価値」として計上
判定は「貢献度(移籍後の年平均)」と「期待比(移籍前3年との比)」の2軸で決め、S〜Dの5段階にしています。移籍後の合計が10勝分以上の長期在籍は、年平均が下がっても最低Bとしました。
注意点がひとつあります。WPには守備とリードの価値が含まれません(捕手には守備位置の補正を加えていますが、リードの巧拙は測れません)。そのため、守備型の遊撃手や捕手は実際の貢献より低く出ます。本記事で判定が低い選手の中には、守備で評価された選手が複数含まれていることを先にお断りしておきます。MLBへ移籍した選手(平野佳寿・秋山翔吾・澤村拓一)と宣言残留は対象外です。
総合ランキング|移籍後に最も貢献したFA選手TOP10
| 順位 | 選手(移籍年オフ) | 移籍 | 移籍後WP合計 | 在籍年 | 年平均 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 浅村栄斗(2018) | 西武→楽天 | 36.3 | 8年 | 4.5 | S |
| 2 | 丸佳浩(2018) | 広島→巨人 | 32.1 | 8年 | 4.0 | A |
| 3 | 近藤健介(2022) | 日本ハム→ソフトバンク | 30.1 | 4年 | 7.5 | S |
| 4 | 岸孝之(2016) | 西武→楽天 | 18.7 | 10年 | 1.9 | B |
| 5 | 西勇輝(2018) | オリックス→阪神 | 17.0 | 8年 | 2.1 | A |
| 6 | 糸井嘉男(2016) | オリックス→阪神 | 14.9 | 6年 | 2.5 | B |
| 7 | 森友哉(2022) | 西武→オリックス | 13.7 | 4年 | 3.4 | S |
| 8 | 鈴木大地(2019) | ロッテ→楽天 | 11.9 | 7年 | 1.7 | B |
| 9 | 山川穂高(2023) | 西武→ソフトバンク | 8.1 | 3年 | 2.7 | A |
| 10 | 西川龍馬(2023) | 広島→オリックス | 7.4 | 3年 | 2.5 | A |
上位3人が別格です。浅村は楽天で8年間、年平均4.5を維持し続けました。近藤はわずか4年で30勝分に到達し、年平均7.5は36人の中で突出しています。丸は移籍前3年の平均が7.8と高すぎたため期待比では「低下」ですが、巨人で8年間主力級であり続けた価値は揺るぎません。森友哉はオリックスでの最初の2年に6.3、5.0と捕手として破格の数字を残し、4年で13.7のSです。
一方で、36人のうち17人がD判定(移籍後の年平均0.2未満)でした。FA移籍は、全体で見れば「当たりは少なく、外れは多い」補強手段だということが数字に表れています。ただしD判定の多くは守備型捕手と、まだ1年しか経っていない2025年組です。これは後ほど触れます。
球団別の損得|楽天がひとり勝ち、西武は76勝分を失った
選手単位の採点を球団ごとに足し合わせると、FA市場での「勝ち組・負け組」がはっきり見えます。獲得側は迎えた選手の移籍後WP合計、流出側は「人的補償で得た価値」から「出ていった選手の移籍後WP」を引いた収支です。
| 球団 | 獲得側: 迎えた選手の合計WP | 主な獲得 | 流出側: 収支 | 主な流出 |
|---|---|---|---|---|
| 楽天 | 66.8 | 浅村・岸・鈴木大地 | ±0 | 美馬・茂木(補償の酒居が美馬を上回る) |
| 巨人 | 47.9 | 丸・山口俊・陽岱鋼 | 流出なし | — |
| ソフトバンク | 39.8 | 近藤・山川 | -0.1 | 甲斐・森福(補償の伊藤優輔でほぼ相殺) |
| 阪神 | 31.9 | 糸井・西勇輝 | -0.8 | 大和 |
| オリックス | 27.2 | 森友哉・西川龍馬・九里 | -37.8 | 糸井・西勇輝・山崎福也 |
| 日本ハム | 4.6 | 山崎福也 | -35.8 | 近藤・増井・陽岱鋼 |
| ロッテ | 1.2 | 美馬 | -9.5 | 鈴木大地(補償の小野郁が2.4) |
| ヤクルト | 1.1 | 茂木 | 流出なし | — |
| DeNA | 0.4 | 大和 | -2.4 | 山口俊・梶谷(補償の平良で大半を回収) |
| 中日 | -0.1 | 大野奨太 | -1.3 | 又吉 |
| 広島 | 獲得なし | — | -41.3 | 丸・西川龍馬・九里 |
| 西武 | 0.8(2025年組のみ) | 桑原・石井一成 | -76.5 | 浅村・岸・森友哉・山川 |
楽天の数字は見事です。獲得側で1位(66.8)でありながら、流出側でも唯一マイナスなし。美馬学を出した際の人的補償・酒居知史が、美馬本人の移籍後(1.5)を上回る2.7を挙げ、茂木栄五郎の流出分をちょうど打ち消しました。「取るときは主力を、出すときは補償で回収」というFA巧者ぶりが、10年分の数字に刻まれています。
西武の-76.5は圧倒的です。浅村(36.3)、岸(18.7)、森友哉(13.7)、山川(8.1)と、出ていった選手が軒並み移籍先で主力になりました。人的補償で得た甲斐野央(2.2)・内海哲也(-0.1)では、とても埋まりません。2025年オフにようやく桑原将志・石井一成を獲得して「取る側」に回りましたが、答え合わせはこれからです。
人的補償で本人より活躍した選手は?出した側が得をした2つのケース
人的補償は「プロテクトから漏れた選手」なので、本人を上回ることはまずない——そう思われがちですが、10年間で2件、はっきりした逆転が起きています。
| FA移籍選手 | 移籍後WP | 人的補償選手 | 補償選手のWP | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 山口俊(DeNA→巨人・2016) | 6.9 | 平良拳太郎(巨人→DeNA) | 7.5 | 補償側が+0.6 |
| 美馬学(楽天→ロッテ・2019) | 1.5 | 酒居知史(ロッテ→楽天) | 2.7 | 補償側が+1.2 |
| 甲斐拓也(ソフトバンク→巨人・2024) | 1.5 | 伊藤優輔(巨人→ソフトバンク) | 1.0 | 本人が+0.5(2年時点) |
| 鈴木大地(ロッテ→楽天・2019) | 11.9 | 小野郁(楽天→ロッテ) | 2.4 | 本人が+9.5 |
| 山川穂高(西武→ソフトバンク・2023) | 8.1 | 甲斐野央(ソフトバンク→西武) | 2.2 | 本人が+5.9 |
| 近藤健介(日本ハム→ソフトバンク・2022) | 30.1 | 田中正義(ソフトバンク→日本ハム) | 2.1 | 本人が+28.0 |
| 丸佳浩(広島→巨人・2018) | 32.1 | 長野久義(巨人→広島) | 2.7 | 本人が+29.4 |
平良拳太郎はDeNAで先発ローテーションに定着し、山口俊が巨人で挙げた価値を上回りました。酒居知史は楽天のブルペンで長く働き、美馬学の移籍後をはっきり超えています。甲斐拓也と伊藤優輔はまだ2年目で、現時点では本人がやや上回っていますが、補償選手が本人に食らいついている構図は注目に値します。
一方で、近藤健介や丸佳浩のような「主力級」の流出では、人的補償でまったく埋め合わせがつかないことも数字が示しています。補償で回収できるのは、せいぜい数勝分。主力を出した球団は、その穴を育成や別の補強で埋めるしかありません。
年度別の答え合わせ|当たり年と不作の年
2016年オフ: 巨人の3人獲りは山口俊だけが及第点
巨人は山口俊・陽岱鋼・森福允彦を一気に獲得しましたが、及第点は山口俊(6.9・B)のみ。陽岱鋼は初年度2.3の後に失速してC、森福はDでした。この年の主役は別のところにいます。阪神へ移った糸井嘉男は6年で14.9(B)、楽天へ移った岸孝之は10年間ローテーションを守って18.7(B)。長く働いた2人が、2016年組の価値の大半を占めました。
2017年オフ: 5人全員がD、10年間で最も不作の年
大和(阪神→DeNA)、野上亮磨(西武→巨人)、増井浩俊(日本ハム→オリックス)、大野奨太(日本ハム→中日)、鶴岡慎也(ソフトバンク→日本ハム)。増井が初年度に2.1を挙げた以外、目立った数字は残っていません。ただし大和は守備で、大野・鶴岡はリードで評価された選手であり、WPが拾えない価値があった年とも言えます。
2018年オフ: 浅村・丸・西勇輝、10年に一度の当たり年
浅村栄斗(S)、丸佳浩(A)、西勇輝(A)と、上位判定の3人がこの年に集中しています。4人目の炭谷銀仁朗はDですが、これも守備型捕手の典型例です。西武はこの年、浅村と炭谷の2人を失い、人的補償の内海哲也(-0.1)では到底埋まりませんでした。
2019〜2021年オフ: 補償の逆転と、巨人の空振り
2019年は美馬学(D)に対する酒居知史の逆転が起きた年。鈴木大地は楽天で7年11.9(B)と息長く働きました。2020年の巨人は梶谷隆幸・井納翔一の2人を獲得しましたが、梶谷はC、井納はD。人的補償の田中俊太もDeNAで数字を残せず、双方にとって実りの薄い取引になりました。2021年は又吉克樹(中日→ソフトバンク)の1件のみで、こちらもD。人的補償の岩嵜翔も中日でマイナスでした。
2022〜2023年オフ: 近藤の歴史的成功と、ソフトバンクの補強力
近藤健介は移籍1年目に9.1、2026年にも8.6と、4年で30.1(S)。年平均7.5は10年間で誰も届かない水準です。森友哉もオリックスで移籍直後の2年に6.3と5.0を挙げてS。2023年の山川穂高(A)と西川龍馬(A)も含め、ソフトバンクとオリックスはこの2年で主力を複数FAで獲得しました。一方、嶺井博希はC、伏見寅威はD判定ですが、ともに守備型捕手です。
2024年オフ: 九里が即戦力、甲斐・茂木・福谷は途中経過
2年が経過した時点で、九里亜蓮(4.5・A)が先発として期待以上、茂木栄五郎(1.1・B)が及第点、甲斐拓也(1.5)はC、福谷浩司はDです。甲斐は人的補償の伊藤優輔(1.0)と僅差で、来季以降の推移が注目されます。九里の補償は広島が支配下枠の事情で金銭を選んだため、人的補償はありません。
2025年オフ: 初年度の数字が出たのは松本剛だけ
則本昂大・松本剛(巨人)、桑原将志・石井一成(西武)、伊藤光(楽天)の5人は、まだ移籍1年目です。2026年に明確な数字を残したのは松本剛(1.8)のみで、他の4人はゼロ前後でした。ただし1年で判断するのは早計で、本記事では「判定保留」の扱いです。来年のこの時期に、改めて答え合わせをします。
36人の判定一覧
| 判定 | 人数 | 選手 |
|---|---|---|
| S:大成功 | 3 | 浅村栄斗(36.3)、近藤健介(30.1)、森友哉(13.7) |
| A:成功 | 6 | 丸佳浩(32.1)、西勇輝(17.0)、山川穂高(8.1)、西川龍馬(7.4)、九里亜蓮(4.5)、松本剛(1.8) |
| B:まずまず | 6 | 岸孝之(18.7)、糸井嘉男(14.9)、鈴木大地(11.9)、山口俊(6.9)、山崎福也(4.2)、茂木栄五郎(1.1) |
| C:物足りず | 4 | 陽岱鋼(4.1)、梶谷隆幸(2.2)、甲斐拓也(1.5)、嶺井博希(0.7) |
| D:期待外れ | 17 | 美馬学、又吉克樹、増井浩俊、野上亮磨、大和、炭谷銀仁朗、森福允彦、伏見寅威、大野奨太、井納翔一、鶴岡慎也、福田秀平、福谷浩司、則本昂大、桑原将志、伊藤光、石井一成 |
D判定17人のうち、守備型の捕手・遊撃手が6人(大和・炭谷・伏見・大野奨太・鶴岡・伊藤光)、移籍1年目が4人(則本・桑原・伊藤光・石井一成、伊藤光は両方に該当)。この9人を除くと、打撃・投球面で明確に期待を下回ったのは8人です。FA移籍は「半分近くが期待外れ」ではなく、「物差しが拾えない選手と、まだ答えが出ていない選手が多い」と読むのが正確でしょう。
よくある質問
Q1. WP(勝利貢献ポイント)とは何ですか?
当サイト独自の指標で、npb.jpの公式成績だけから算出します。公開されているWARと同じ考え方で、代替水準の選手と比べて何勝分の価値をもたらしたかを推定します。野手は出塁率・長打率と打席数、投手は防御率と投球回が土台で、勝利数やセーブ数そのものは使いません。代替水準を下回った年はマイナスになります。
Q2. なぜ守備やリードを評価に含めないのですか?
公式成績から客観的に数値化できる範囲に限定しているためです。守備指標は算出方法によって差が大きく、再現性を優先しました。捕手には守備位置の補正を加えていますが、リードの巧拙は測れないため、守備型の捕手や遊撃手は実際の貢献より低く出ます。本文でもその点は都度明記しています。
Q3. 人的補償の価値はどう計算していますか?
補償で移った選手が、移籍元の球団で挙げたWPの合計です。その選手がさらに別球団へ移った後の成績は数えません。金銭補償や補償なし(Cランク)の移籍は、流出側の受け取りをゼロとして収支を計算しています。
Q4. 2025年オフの選手の判定が低いのはなぜですか?
移籍後1シーズンしか経過していないためです。機械的に判定するとD判定が並びますが、本記事では「判定保留」として扱っています。来年以降、毎年この時期に数字を更新します。
Q5. 宣言残留した選手やMLBへ移籍した選手は含まれますか?
含みません。本記事は「FA権を行使して国内の他球団へ移籍した選手」が対象です。平野佳寿・秋山翔吾・澤村拓一のMLB移籍は、移籍後の国内成績が存在しないため対象外としました。
Q6. この記事は更新されますか?
はい。毎年シーズン終了後に成績を取り込み、FA宣言の時期に合わせて更新します。今オフにFA移籍した選手も来年から対象に加わります。ドラフト答え合わせシリーズと同じく、定点観測の記事としてお読みください。
まとめ|FAは「誰を取るか」より「誰を出すか」で差がつく
10年間36人の答え合わせで見えたのは、FA市場の勝敗が「獲得」だけでなく「流出」で決まるということです。楽天は取るときは主力を取り、出すときは補償で回収して12球団で唯一、流出収支をマイナスにしませんでした。西武は4人の主力を失い、76勝分を取り返せていません。そして人的補償には、平良拳太郎や酒居知史のような逆転劇が確かに存在します。
今オフのFA宣言期間は、日本シリーズ終了の翌日から7日間。誰が動くのか、どの球団が「取る側」と「出す側」になるのか——この記事の数字を頭に入れて眺めると、ニュースの見え方が変わるはずです。権利取得者と宣言・移籍先の最新動向は、毎日自動更新のFA2026一覧で追えます。
来季、FA移籍した選手たちがどんな数字を残すのか。その答え合わせは、来年のこの時期にまたお届けします。12球団の試合をまるごと追える環境を整えて、新天地での活躍を見届けましょう。


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